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商標

「§CHAOS\LOUNGE(カオスラウンジ)」の商標権(登録番号:第5492088号)が、「カオス*ラウンジ」関係者以外の人物によって、ヤフーオークションで売りに出されているという話題は、興味深いと言えば興味深い。但し、一連の経緯を詳細に追うのも面倒臭いので、興味のある向きはその仔細を各々検索して頂きたい。


参考:「【速報】カオスラウンジの商標権ヤフオクで1円スタート【pixiv現代アート騒動】」
http://togetter.com/li/370955


ヤフオクの当該ページは、「オークション > 本、雑誌 > 雑誌 > アート、エンターテインメント > 美術総合」にあり、オークション・タイトルは「【現代アート最終章】カオス*ラウンジ商標権【そして茶番へ】」とされ、そこにはわざわざ「カオス*ラウンジ ディス・ソリューション宣言」なるテクストへのリンクも付いていたりしている訳であるから、このヤフオクへの出品自体が、出品者が考えるところの「現代アート」に関係付けている動きである事は、ほぼ間違いないと言えるだろう。


その「カオス*ラウンジ ディス・ソリューション宣言」であるが、その文意をどうこうと言うよりは、「現代アート」の世界で、いかにも使用頻度が高そうな「現代思想」風用語を、「自動的に吐き出される演算結果」の如く「収集」する事で、「現代アート」の「様式」こそを、「テイスト」として戯画的なまでに扮技しようとするところに、最大の意味を持たせた文章の様にも思える。「現代アート」=「現代アート様式」という等式に於いて、或る意味で正鵠を射ている印象も無いでは無い。但しこの宣言文の最重要部は、最後の「リスク」部分にこそあるのだろう。寧ろオークション本体の「出品者に質問する」の遣り取りの方に、より興味深いものを感じる。取り敢えず、当該オークションは「侠気でやってる(「出品者に質問する」の回答)」が故に「(全額募金)対象商品」である。

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中国企業の唯冠科技(深圳)が、中国国内で保有し、アップルとの間で係争中だった "iPad" の商標権問題は、今夏の中国広東省の高級人民法院(高裁)の発表によれば、アップルと唯冠科技(深圳)の間で和解が成立し、アップルが唯冠科技(深圳)に対して、和解金6000万ドル(約48億円)を支払う事で合意したという。遡る事2009年、初代 "iPad" の発売直前には、2000年に世界各国で "iPad" の商標権を取得していた唯冠グループの唯冠台湾とアップルの間で係争があり、アップルは「唯冠の行為は商標取得のみに留まり製品を開発していない」として、イギリスで起訴したものの結果は敗訴。唯冠グループから "iPad" の商標権を買い取り、現在に至っているという経緯がある。その後、唯冠台湾とは別法人であると主張する、中国国内で "iPad" の商標権を有するとする唯冠科技(深圳)が、「無断で “iPad”という商標を使用している」として、アップルに対して20億ドル(約1200億円)の賠償金を求めていたのが今回の係争だった。和解によって、20億ドルから6000万ドルへと大幅に「下がった」事で、アップルが「安い買い物」をしたという見方もされている。唯冠科技(深圳)の弁護士は、「アップルが "iPad" 商標権を購入した事になる」と述べたという。取り敢えず、晴れて中国で "iPad" の商品名でタブレットマシンを売る事が出来そうになったアップルだが、現在中国で "iPad" や "iPhone" を商標申請している中国企業や個人は数十件に上るとも言われ、これから先も、照明器具、ハイキングシューズ、ベルト、薬品、おむつ、懐中電灯、ガスコンロ、ガラスレンズ、床板、コンクリート等々、様々な中国の "iPhone" や "iPad" との戦いが、アップルには待ち受けているかもしれない。


果たして、中国で「カオス*ラウンジ」を商標権申請している(乃至は既に取得済の)ケースがあるかどうかは判らないが、例えば中国のアーティスト集団(或いは個人)が、「カオス*ラウンジ(混沌*休息室?)」の商標権を持っているというのは有り得ない話では無いだろう。 "Yayoi Kusama(例)" や "Christian Boltanski(例)" といった個人名を、日本に於いて商標とする事は「非道」な行為であると言えるかもしれないが(そもそも日本では不可能だろうが)、しかしそういう事が可能になってしまう国もまた、地球上には現実的に存在する訳であり、そこでは世界中の有名人の個人名の多くが、商標権申請をされていたりもする。


商売と全く関係しない美術を志向する、美術で生計を立てる事をしないというのは一つの見識である。しかしその一方で、それで生計を立てないもの、商売と関係しないものは、美術の風上にも置けない、美術を舐めている的な見識も当然あり得る。いずれにしても、一旦商売の世界に足を踏み入れたのであれば、こうした「非道」を含めた商売上のあり得べきリスクも、当然視野に入れるべきではあるだろう。残念ながら、商売に例外はほぼ存在しない。芸術はそれ自体では商売上の例外クーポンとしては一向に働かない。仮に商売に於いて例外でありたいのなら、商売という世界でのアバンギャルドを志向しなければならないだろう。例えそれが「非道」に見えたとしても。

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今から30数年前に「ライカR3」という一眼レフカメラがあった。同時期のレンジファインダー・カメラ「カナダ製M型ライカ」以上に人気が薄いカメラだった。「カナダ製M型ライカ」は、それでも「本国」ドイツの「ウェツラー工場」と同じ「ライツ社」製だったが、一方の「ライカR3」の実質的な「中身」は、「ミノルタXE」という日本製のカメラだった。些か正確性を欠く言い方をすれば、「ライカR3」は「ミノルタXE」に「ライカ」の皮を被せた「だけ」のモデルである(細部にモディファイはある)。当時の「ライカCL=ライツミノルタCL」と共に、今では珍しくもないOEM(Original Equipment Manufacturer)の、「ライカ」に於けるほぼ最初の例として見る事が出来る。但しドイツ製品「ライカR3」は、日本製品ミノルタXE」よりも、遥かに高価な値付けをされていた。即ちそれが「ライカ」だからだ。


近年「ライカ」として売られていた「コンパクトデジタルカメラ」の殆どはOEMである。公式にアナウンスされている訳ではないが、その殆どが日本製の「中身」を持つ事は、誰が見ても一目瞭然であり、その日本製ベースモデルを特定する事も極めて容易い。それらに搭載された「ライカレンズ」の設計製造に、ライカ社が深く関わっている訳ではないというのも広く知られている。その上、そのベースモデルのレンズは、その電機メーカーが設計製造している訳ではない。当該電機メーカーは、カメラのOEM事情に多少なりとも詳しい人間なら誰もが知っているレンズメーカーからそれを買い付け、それを電機メーカーの名の下にアセンブルし、その出来上がった製品を、ライカ社は「ライカ」のブランドを付けて、「ライカ」分だけ上乗せ価格で売る。


フィルムカメラ末期の頃には、C社とN社とO社とR社で出していた(C社は輸出専用モデル)一眼レフ(キットの形で付いていたレンズ共)が、長野の某社製の同じカメラ(ロゴとレンズマウントが異なる)であったのは、カメラに詳しい者なら常識の範疇にある。その上で「やはり流石にN社のレンズは違う」などという御意見もあったりする。日産やマツダの軽自動車は、日産やマツダで作っている訳ではなく、浜松の自動車メーカーの OEM であるというのは、凡そ新聞の経済欄を見た事のある人間なら極めて一般常識である。少なからぬ「ドイツ車」「フランス車」「イギリス車」「イタリア車」「スウェーデン車」等が、何から何まで生粋の本国製であると信じる人間は今では少ない。しかしそれでも「ドイツ車」はドイツの「テイスト」を、「フランス車」はフランスの「テイスト」を、「イギリス車」はイギリスの「テイスト」を、「イタリア車」はイタリアの「テイスト」を、「スウェーデン車」はスウェーデンの「テイスト」を、どこかで醸していると信憑されている。

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只の妄想である。OEM美術は可能だろうか。


或る美術家個人でも良いし、美術グループでも良いが、他人の作品を「自社ブランド」ならぬ「自者ブランド」で売る。「発注芸術」もOEMと言えば言えなくもないが、「同一の作品」を複数のアーティストが「ブランド」、即ち「作者名」だけ変えて売るというのは、寡聞にして聞いた試しが無い。そこでは「ライカ」と「某社」、「ツァイス」と「某社」、「ハッセルブラッド」と「某社」等々の様な事が起きるかもしれない。そうなれば、「中身」が全く「同一」でも、「ブランド」の違いが、「やはり流石に誰某の作品は違う」として、その作品価格に反映される。アートの世界の「ライカ」の作品は高く売れ、アートの世界の「某社」の作品は安値で取引されるか全く売れない。それは全く非合理な話だが、しかし非合理の「ブランド」商売こそが「アート」なのだとも言えるだろう。


或いはそこには、例えば、"Volkswagen Group AG" に於ける "Audi" "Bentley" "Bugatti" "Lamborghini" "Porsche" "SEAT" "Škoda" "Volkswagen" 、"BMW AG" に於ける "BMW" "MINI" "Rolls-Royce" 、"Fiat S.p.A." に於ける "Abarth" "Alfa Romeo" "Ferrari" "Fiat" "Lancia" "Maserati" 的な、複数のブランド(チャンネル)持ちの「アーティスト」がいるかもしれない。保守層向けの「アート」と、若者向けの「アート」のブランドを、同時所有して「商売」をする「アーティスト」。共有化可能な部品は「車台(プラットフォーム)」を含めて共通化する事で、利益率を大幅に向上させる。そこまで行けば、本当に「商売人」の栄誉を得られるかもしれないし、その時こそが「アート」に於けるリアルな「主体」の終焉にはなる事だろう。

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ここに至って「カオス*ラウンジ商標権」の値動きは、1,007,000円でストップしている様だ。このままこの価格に決まるのかもしれない。新しい権利者がそれをどう使うのかは判らない。超絶的な展開になるのか、このまま塩漬け化するのかも判らないが、しかしどちらも大した違いは無いかもしれない。


それとは全く関係なく、ここに至って突然頭の中に、「カオス*ラウンジZ」「カオス*ラウンジアキラ」「カオス*ラウンジレオ」「カオス*ラウンジブラック」という名称が、何の脈絡も無く浮かんできてしまったのであった。


補記:100万円強まで上がった価格は、結局 99,931円という事で落ち着いた様だ。その経緯を追うのも面倒臭いので、その辺りの事が気になる向きは各々調べて頂きたい。