不純物と免疫「序」

#多様

【知事】それから、ガラッと変わりまして、現代アート、現代美術の分野の新しい取組についてのお知らせです。これまで都は、トーキョーワンダーサイトの本郷、渋谷、墨田区立川、この三つの拠点を活用してまいって、若手アーティストの発掘・育成支援を行ってまいりました。同時に海外からのアーティスト、この方々に数か月間滞在していただいて、その間に国際文化交流を行うということで、レジデンス・プログラムというものがございます。これらを含めて、若手アーティストに作品の制作や発表の場を提供してきたというものでございます。

このたび、さらに、この東京から世界に向けて、新しい芸術文化を創造して、発信していくための、若手アーティスト育成支援策、これを充実する。それからアール・ブリュットというものがございますけれども、アール・ブリュットなど、幅広い現代美術の展開を進めてまいります。ちなみに、このアール・ブリュットでございますが、美術の専門教育を受けていないけれども、天性の芸術センスがあるですとか、それから、独自の形で表現した作品というそういうジャンルと捉えられているわけでございます。日本では往々にして、障害のある方のアートとして認識される風潮がございますけれども、それに限ったものではございません。幅広い作家が担い手となって、このアール・ブリュットを形成していると考えております。

今回の新たな取組でございますが、まず新人アーティストの発掘のための公募展であります「トーキョーワンダーウォール」でございますけれども、最近は民間団体の公募事業が大分増えておりまして、一定の役割を果たしたということで、今年度をもって終了することといたします。今後、2020年、それからさらにその先、ビヨンドですね、を見据えて、世界で活躍できるアーティストの発掘、これはもちろん続けてまいります。そして、継続的に育成、そして支援をしてまいります。さらに、新たな現代美術の賞を、平成30年度をめどといたしまして創設をしていく考えでございます。

2点目でございますが、今申し上げたアール・ブリュットの更なる普及を通じまして、ダイバーシティ(注1)、多様性のある社会の実現を着実に推進していくために、トーキョーワンダーサイト渋谷の施設をアール・ブリュットの拠点に変えていくということでございます。期限については2020年を目標といたしております。今年の秋頃に暫定的にオープンいたしました後、アール・ブリュットの新しい拠点として、本格的な施設改修を行います。そして、平成31年度に向けまして、グランドオープンできるように準備を進めていくというものでございます。こうした新しい事業展開を契機にいたしまして、これまで使用してきました、トーキョーワンダーサイトという名称につきましても、来年度早々に変更することといたします。また、新しいロゴを公募したいと考えております。

ロゴの公募にあたりましては、若いクリエーター、それから美術大学の学生など、若い世代の方々に参加してもらうようにしてまいりたいと考えます。国内外の芸術、文化活動に幅広く印象づけられる、そのようなロゴにしたいと考えております。担当は生活文化局でございます。


小池百合子東京都知事「知事の部屋」/記者会見(平成29年2月3日)より抜粋。
http://www.metro.tokyo.jp/tosei/governor/governor/kishakaiken/2017/02/03.html

(注1)diversity 1〔意見(いけん)や様式(ようしき)などの〕多様性(たよう せい)、さまざまな種類(しゅるい) 2〔人種(じんしゅ)や社会経済的(しゃかい けいざい てき)〕多様性(たよう せい)(許容(きょよう)) 3〔通常(つうじょう)のものとの〕相違点(そういてん)、食い違い

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#免疫

昭和6年(1931年)に設計され東京市によって建てられたという、旧都立御茶ノ水高等職業訓練校事業内訓練教室/旧都教育庁お茶の水庁舎の建物に向かう為に、JR水道橋駅を降りた。現在その建物は「トーキョーアーツアンドスペース本郷」と呼ばれているらしく、略称は「TOKAS Hongo」だという。「とかすほんごう」と読むのだろう。“TAS" ではなく、“TOKYO" から “TOK" の3文字を抜き出し、“ARTS" と “SPACE" からは1文字ずつという 3:1:1 の配分や、「アーツ」と「スペース」が「アンド」によって等質的なものとして繋げられているところに、深い意味があるのかどうかは判らない。

「トーキョーアーツアンドスペース本郷」になる前は、そこは「トーキョーワンダーサイト本郷」だった。先代の先代のそのまた先代の都知事である石原慎太郎氏(1999年4月23日〜2012年10月31日都知事在職)の「トップダウン」で始まったと言われている「トーキョーワンダーサイト」事業、及び「トーキョーワンダーウォール」事業は、小池百合子都政になって「トーキョーアーツアンドスペース」事業に改組される。それが発表されたのは、今から3ヶ月半前の東京都議会議員選挙(7月2日投開票)に於ける都民ファーストの圧勝で最高潮を迎えた「小池劇場」の上げ潮期に当たる(注2)

(注2)「トーキョーアーツアンドスペース」事業が発表された2ヶ月後、2017年4月10日発売の「文藝春秋」5月号には、その前月号である同誌4月号に掲載された石原慎太郎氏の手記「~私は逃げない。一対一で公開討論しようじゃないか~ 小池都知事への諫言 豊洲移転を決断せよ」に反論する形で「~すべて明かす~ 石原慎太郎の嘘、豊洲移転の判断」という手記を小池百合子氏が寄稿している。その手記中には、石原氏と「トーキョーワンダーサイト」事業の関わりを仄めかしもする記述がされている(p.101)。

この建物に行くのは極めて久し振りであり、またJR御茶ノ水駅から同所へ行く事が多かったので、外堀通りから曲がるべき道を間違えてしまった。「トーキョーアーツアンドスペース本郷」の建物と同時期(1930年=昭和5年1月25日)に開園した文京区元町公園を過ぎたところで左折してしまったのだ。

100メートル程を歩いたところで誤りに気付き、そこからワンブロック引き返してから東側の本郷給水所公苑方向へ向かう。すると目の前に「衆議院小選挙区選出議員選挙(東京都第2区)」の掲示板が現れた。自民党前職、希望の党新人、立憲民主党新人の所謂「3極」の3人の候補者である。希望新人候補は小池百合子希望の党代表とのツーショットだ。

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「トーキョーアーツアンドスペース本郷」の入口が、右手20m先に見える。そこが「不純物と免疫」の入口にもなるのだろうか。

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不意に頭の上で “Idea bulb" が点灯する。

Google Map を開いていたスマートフォンのアクティブ・アプリをブラウザに切り替える。「不純物と免疫」で Google 検索し、スマホ・ファーストに設計された同展の公式サイトにアクセスする。「不純物と免疫」のステートメントを画面に出して、目の前の掲示板を眺める。

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ますます複雑化し混迷を極めるかに思える現代社会において「共存」の技法を模索するため、本展では「不純物 impurity」と「免疫 immunity」という概念を導入する。自分たちの固有性や純粋性を過度に守ろうとする結果、かえって自分たちを死滅させてしまう文明のありようを、イタリアの哲学者ロベルト・エスポジトは「免疫」という概念を用いて活写している。「9.11」やナチスのそれは、まさに「自己免疫化」の徹底として説明されうる。しかし、どこまで徹底しても完全に純粋な存在などあり得ないために、あらゆるものは不純物として何らかの免疫システムに抵触しうる。「共存」とは不純物と免疫の絶えざる動的な緊張関係に他ならない。


「不純物と免疫」ステートメント(長谷川新)より抜粋。
http://impurityimmunity.jp/

 スマホ・ファーストという事は、路上からでも何処からでも、最適化された形で「不純物と免疫」のテクストにアクセス可能であるという事だ。もしかしたら、この掲示板の前に既に「不純物と免疫」のアクティブな入口は存在しているのかもしれないし、ここに来る遥か以前からそれは始まっていたのかもしれないというフラッシュが、電球の点滅の正体だ。

この掲示板も「不純物と免疫」の「出品物」の一つであると考えれば、掲示板を前にしたスマホに表示されたステートメントは、「出品物」たる「衆議院小選挙区選出議員選挙(東京都第2区)」の掲示板の説明文の様にもなり得る。スマホの読み上げ機能を使えば、それはオーディオ・ガイドの様にもなるだろう。

常考えられる「不純物と免疫」展の入口は、確かに「トーキョーアーツアンドスペース本郷」の3階にある。そこから「中」は、ステートメントの最後に「本展の作家たちの実践は、自己免疫化した時代において、なおも『不純物』たろうとする態度の形式なのである。」とある様に、或る意味では「こっちへおいでよ」的に見えるものかもしれない。そこでは様々な技術が駆使され、練り上げられてもいるだろう。であればこそ、この掲示板は「不純物と免疫」展自体に対する「不純物」として働きもする。「衆議院小選挙区選出議員選挙(東京都第2区)掲示板」と「トーキョーアーツアンドスペース」の「間」に多角形が出現する。

20メートルを歩き、「トーキョーアーツアンドスペース本郷」の入口を入る。「51%」の講義を受け「モノタロウ」の「耳栓」を受け取る。カタログの1分冊を手に取ると、後から来た観客の現代美術作家が、現代美術作家としての「自己免疫化」を徹底的に発動させる事で、徹底的に「不純物」的存在である事をアピールしようと、そこにいた一般人に対して悲痛なまでに居丈高に振る舞っていた。

現代美術作家が頑張っている姿を後にする。センサーがヘッドフォンを認識する遥か前からそれを装着して階段を登り、ステンドグラスの踊り場をターンする。そこから先は漆黒空間が続く。階段を登り切ると、その時ヘッドフォンが作動した。

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