資産

承前

「週刊ダイアモンド 9月18日号」による「全国537私立大学」の「『財務状況』ワーストランキング」に上げられた「美術大学」のランキングは下図の通りだ。「美術大学」をピックアップするにあたっては、Wikipediaの「美術大学」の「私立大学」リストに準じた。


http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%BE%8E%E8%A1%93%E5%A4%A7%E5%AD%A6


「週刊ダイアモンド」に倣って、「国公立大学」はもとより、「美術・デザイン系学部のある大学」も割愛してある。但し「日本大学藝術学部」と「東京工芸大学芸術学部」は、Wikipediaに準じてリストアップした。「参考値」としての意味はあるだろう。「週刊ダイアモンド」では「財務状況」の「ワースト」順になっているが、下図は「ベスト」順に作り直した。順位(下図「A列」)が上がる程「財務状況」が「良い」という事になる。


A列:順位 個別大学ベースの帰属収支差額比率の低い順
B列:大学名
C列:都道府県
D列:帰属収支差額比率(%) 経営の窮迫・余裕度を測る指標。企業の経常利益率に当たる。支出超過(マイナス)が大きいほど窮迫する。計算式は(帰属収入−消費支出)÷帰属収入
E列:帰属収入(百万円) 帰属収入とは、授業料・入学金、国からの補助金など学校の負債とならない収入。企業の売上に当たる
F列:帰属収支差額(百万円) 帰属収入から人件費、教育研究経費など経常的な経費を差し引いたもの。企業の経常利益(損失)に当たる。マイナスは支出超過
G列:帰属収支差額順位(注:ワースト順)
H列:自己資金比率(%) 財務の安全度を測る指標。数字が小さいほど財務は脆弱。50%割れば他人資本が自己資金を上回ることを意味する。計算式は(基本金+消費支出差額)÷総資産,自己資金比率順位(低い順)
I列:自己資金比率順位(低い順)
J列:自己資金比率の悪化度(5年前比、%)
K列:自己資金比率の悪化度順位


「週刊ダイアモンド 9月18日号」による

「財務状況」の判断基準となっているのは「帰属収支差額比率(上図D列)」だ。日大の様なマンモス校は、「帰属収入(上図E列)」も1千億円オーバーと「桁違い」な一方で、「帰属収支差額(上図F列)」もまた、20億円と「桁違い」だ。その他は、「大阪芸大」や「多摩美」「武蔵美」の「帰属収入」100億円クラスを筆頭に、数十億円クラスが並び、コンビニ繁盛店クラスの「年間売上」8億6千500万円の文星芸術大学が「最後」に控える。


週刊東洋経済 10月16日号」の「大学四季報」には、「国公立大学」も含めた「私立112校 国立62校 公立7校」の「決算データ」の内訳が、「週刊ダイアモンド」よりも詳細に載っている。その内「美術・デザイン系学部のある大学」以外の、「純粋」に「美術大学」と呼べる大学は、「日本大学」と「東京工芸大学」を除けば、「国公立」含めて「多摩美術大学(健全性*A-)」と「京都精華大学(健全性B+)」の2校を数えるのみだ。


*健全性 自己資金比率=自己資金÷総資産


それぞれに「消費収支計算書」や「貸借対照表」等の詳細データと共に、「2009年度決算、今後の計画について、大学側による説明に基づき」作成された「概況」が載っている。

多摩美術大学
大型投資「コンピュータ関連の実習費徴収廃止、学費値下げで学納金縮小。私学退職金財団交付金減少や補助金減額も響き、帰属収入低下。人件費や管理経費の圧縮でしのぐ。自己資金での上野毛キャンパス再整備を計画中、財務強化。」


京都精華大学
帰属収入源「デザイン学部マンガ学部が完成年次迎え学生数増加、学納金がアップ。ただ寄付金が前期の40周年記念募金の反動減。私大退職金財団からの交付金も減って帰属収入下降。人件費削減、資産処分損縮小し、帰属収支は改善。」

これらの数字から見えてくるものは多々あるものの、いずれにしても、それぞれの「美術大学」で、「生き残り」の為の「経営努力」が様々に行われている事は確かだ。大学と言えども、コスト意識は必要になっている。切り詰める所は切り詰める。その甲斐あってか、全体として下降傾向にあるとは言え、平均すれば、未だに「美術大学」の入試倍率は、プラスの数字を保ってはいる。概ね(飽くまでも「概ね」)「健全」であると言って良いだろう。


それ程に、多くの若者を惹き付けて止まない「美術大学」の魅力とは何だろうか。デザインや工芸等の学科を別にすれば、「ファインアート」系学科での「教育」は、畢竟「展覧会」での「発表」を軸にしたものだと言えるだろう。教員によって「展覧会」の解釈はまちまちだが、それでも「展覧会」の「世界」へ若者を送り出す事に於いては、ほぼ全員が共通していると言える。「美術大学」の「ファインアート」系学科の実技教育の主たる目的は、様々な「展覧会」技術を習得させるものである。翻って、それを指導する実技教員の「研究実績」もまた、「展覧会」での「発表実績」という事になっている。従って「美術大学」内での認識としては、「展覧会」は「学術研究」を意味している。


全ての「美術大学」の「ファインアート」系の学生数は、数千人から1万人レベルに達するだろう。その何分の一かが毎年卒業生として社会に出る一方で、ほぼ同数の入学生を「美術大学」は迎える。それら「ファインアート」系の美大生は、「美術大学」的には、その全てが「展覧会」を「目指す」者として扱われる。現実的な「サバイバル」率からすれば、どこかでそれを断念しなければならない者の方が圧倒的に多いにも拘わらず、若い人は「展覧会」を「目指す」。恐らくそれは、「成熟」した「共同体」の「存続」の為の、「社会資産」の「充実」上、「素晴らしい」事なのだ。そしてそこでは、「成熟」も、「共同体」も、「存続」も、「社会資産」も、「充実」も、「素晴らしい」も、取り敢えず全てが不問のままで良い。