読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

ノマドワーカー

またもや車寅次郎氏なのである。


車寅次郎氏と言えばトランクである。あのトランクの中には一体何が入っているのかは、誰もが気になるところだ。当然「Yahoo!知恵袋」にもそういう質問はある。すると世の中は良くしたもので、やはり「こちらのページに、載っていました!!」という解答が寄せられたりする訳である。流石に入試問題を答えてくれる「Yahoo!知恵袋」である。流石にその入試問題の大学の文化祭のテーマが「大切なことはみんなYahoo!知恵袋が教えてくれた」に決まったというデマさえ流れる「Yahoo!知恵袋」である。早速解答の仰せ通りに掲載のリンク先に行ってみると、果たしてあっけなくその中身の画像があるという寸法だ。


http://homepage2.nifty.com/masatoki/tora7.html


第25作「寅次郎ハイビスカスの花」でトランクを開けるシーンがあり、そこには浴衣、トランジスターラジオ、見舞金、エプロン、着替えのダボシャツ、越中ふんどし(さくら手製)、洗面具、はがき、筆記具、小型総合時刻表、メンタムなどの家庭薬、チリ紙、蚊取り線香等が入っているという。画像には他に、目覚まし時計や、日本の夏には欠かせない金鳥蚊取り線香等も映っている。トランク蓋部のポケットには、高島易断本暦も見えている様な気がする。意外に普通の旅支度である。少し興ざめである。2012年の車寅次郎氏が、スマートフォンタブレットやノートパソコン使いになっているかどうかは判らないが、仮にそれらを持っていたら、目覚まし時計、時刻表、高島易断本暦は持ち歩かなくても良いだろう。高島易断本暦は iPhoneandroid にアプリがある。


フーテンの寅ではあっても、プータローの寅でもなければ、ノンシャランの寅でもない。目覚まし時計の存在がそれを物語っている。彼には、恐らく契約上の時間順守の義務があり、指定された(指定した)時間に間に合う様に起きなければならない生活を送っている。彼は仕事をする人なのだ。そりゃそうだ。的屋稼業の人だ。個人事業主だ。仕入れから何から、車寅次郎氏自身が全て行なっている筈だ。車寅次郎氏は原価計算をする人なのだ。確定申告をする人なのだ。帳簿をつける人なのだ。想像するのが嫌かもしれないがそうなのだ。意外な程に丁寧に畳まれたダボシャツに隠れたトランクの底部には、そうした商売に関係したものが仕舞われている事だろう。算盤だって隠れている筈だ。でも今ならきっと、Excelである。彼は華麗な Excel 使いかもしれない。想像するのが嫌かもしれないがそうなのだ。ダボシャツの下には「Excel関数 逆引き辞典パーフェクト」が隠れているのだ。


車寅次郎氏の様な存在を、2010年代の日本なら、小洒落て「ノマドワーカー」と称するのかもしれない。尤も車寅次郎氏自身は、自分の事を「ノマドワーカー」とも「フリーランス」とも言わないだろうが。「ノマドワーカー」を、今度は「Yahoo!辞書」で引いてみる。


ノマドワーカー(のまどわーかー)


ノマド」は「遊牧民」を意味する英語。つまり、自宅やオフィスの自分の机といった1か所にとどまらないでカフェや居酒屋など、さまざまな所を自分の居場所として仕事をこなす人。iPhone(アイフォーン)のようなスマートフォンiPadアイパッド)などのタブレット型コンピュータが出回ることによって、情報をどこでも仕入れることができるので、それを駆使して企画などをまとめるのである。かつてのようにオフィスの有線電話しかなかった時代においては、自分の机の上の電話機だけが頼りであったが、いたるところに無線LAN環境を備えたカフェなどが存在していれば、そこで情報を手に入れることができ、スマートフォンであらゆる場所に連絡をとることができる。そうして仕入れた情報をコーヒーを飲みながらノートパソコンでまとめて、形となったものを自分のオフィスのパソコンに送っておけば、あえてオフィスにいる必要はないのである。成果主義の導入によって、仕事の途中の行動はどのようなものであれ、最終的に会社に対して多大な利益をもたらすならば、誰からも文句をいわれないのである。ただ、本来のノマドワーキングは仕事を効率化して一攫千金を得て人生を楽しむためのものであるが、日本の場合は24時間働くためのものとなっていて、本来の「ノマド」ではなく「名ばかり遊牧民」になっているという批判もある。


http://dic.yahoo.co.jp/newword?index=2010001911&ref=1


今週の頭に、某新幹線駅構内の超有名ファーストフードチェーン店に久し振りに寄ってみたら、カウンター席の100ボルト電源が根こそぎ撤去されていた。そりゃそうだ。新幹線駅なのだから、本来ならば通常店よりも、客席回転率(=総入店客数/客席数)が立ち食いそば屋店並に高くなければならない筈だ。本部は椅子の硬さや座り難さまで塩梅して、そういうものを少しでも高めようとしているのに、勝間和代氏も御推薦の Let's note で Excel をいじっていたり、Outlook を開けているノマドワーカーの尻にはしっかりと根っこが生えていて、ノマドワーカーなのに通常の客よりもノマドじゃない。店にすれば、そうした存在は「しっしっ、あっち行け」なのであり、それこそ公園か何かに行って貰って、そこでソーラーでイーモバしてノマドにでも何でもなってくれなのである。太陽光で液晶見えないけど。しかしそうなるともうノマドじゃなくて野良である。良いじゃないですか、野良ワーカー。ステキ。


野良猫と付き合った事があれば、彼等の「人生」の過酷さに気付かない訳にはいかない。通常、野良猫の寿命は飼い猫よりも短い。野良ワーカーの平均寿命はどうなんだか知らないが、飼いワーカーよりは短い気がする。本来野良猫の様に過酷である筈の「ノマドワーカー」の安直な流行に釘を刺す、ノマドの人によるこういう「心得」が、ネットにアップされたりもしている。


ノマドワーカーがクールだなんて幻想だ! というお話
http://www.lifehacker.jp/2012/04/120410nomadisntcool.html


曰く「完全なる成果主義」「ダラダラ仕事をしない」「環境に仕事のクオリティーを左右されない」「言いわけをしない」「〆切が守れる」「他の人と同じクオリティのものでは不十分」「身体が丈夫」「ある程度以上のお金を稼ぐ」「ノマドのメリット、デメリットを知る」「他のノマドワーカーの評判を落とさない」。この中の幾つかは「野良猫の心得」としても読めるものだが、猫はそれを、ブログを読む事無く「本能」で身に付けるのである。当然これは、野良ワーカーの一つである「アーティスト」の心得としても読める。


「中途半端な仕事をしていると、すぐに仕事はなくなります」
「時給で働いている時の8時間分の給料を2時間、最大3時間の実働で稼げないのであれば、オフィスで拘束時間に対してお金をもらっている方が色んな面で得でしょう」
「どんなに快適な、または過酷な環境であっても、それに影響されることなく、ある程度以上のクオリティーのアウトプットができる集中力と精神力を持つことがノマドの必須条件」
「仕事が上手くいかないのは自分の能力が足りないからです」
「約束事を守れないのであれば、仕事を打ち切られても何の文句も言えないと思っていないと、ノマドは成り立ちません」
「何か決定的に差別化を図れる部分が一つくらいはないと、なかなかノマドをしながら仕事を受けるのは難しいのが現状です」
フリーランスとして仕事をするのに何よりも大切なのは健康でいること」
「自立したノマドとして充分なお金を稼げないのであれば、ノマド以外の選択肢を探すべきです」
「一番やってはいけないのが、お金に困った挙げ句、業界の水準よりも安い単価で仕事を受けてしまうことです」
ノマドになるということは、会社が提供してくれている全てを自分が賄わなくてはならないことを意味します」
ノマドというのはイメージ的に自由なだけで、実際のメリットというのはそれほどありません」
「この瞬間クールに見えるからといって、今からノマドを目指してもきっと良い事は何一つありません」
ノマドというのは、あくまでも人生においてさほど重要ではない一面であり、必死に努力して目指す価値のあるようなものでは決してないです」


仮に「アーティスト養成」の教育機関があるとすれば、こうした「心得」は一にも二にも必須の授業となるべきものだろう。しかし書きたい事はこれではなかった。寅さんのトランクの話なのであった。寅さんのトランクは、何ゆえにあの大きさに決定されているのかについて考えるは、また明日のこころだ。


【続く】