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そうたつ

承前


長嶋茂雄の人物像を語る時、しばしば登場するのが、彼の発する擬態語と擬声語、そして「いわゆるひとつの」に代表されるような、いわゆるひとつの「長嶋語」である。


「由伸!そこは腰をビュッとして、右肩をグーッとじゃなくて、ストーンとして、バットのヘッドをバシッと。オー、良し!良し!だいぶ良くなってきた」


長嶋茂雄の行動原理は、恐らく副詞的だ。名詞でも動詞でも形容詞でも形容動詞でもない。仮に、長嶋茂雄が形容詞や動詞的存在に見えるとしても、それは外部からの観察によるものであり、長嶋茂雄自身は副詞的な人物なのだろう。


俵屋宗達もまた、副詞的な人物である様に思える。


「風神が右からビュッと現れて、布をボワッとさせて、こっち方の雷神がアンッって感じでグイッとして、雲をガガッとしてボワボワッと。ガガッ、ガガッ、ガガッ!ボワッ、ボワッ、ボワッ!ジワジワーッ!オー、良し!良し!だいぶ良くなってきた」



自分には宗達がそう口で言いながら、制作をしているのが聞こえる。


一般に特に近代以前の日本の絵画は、形容詞的であるとも思われているが、仮に宗達にその独自性が見られるとするならば、他の絵師に比べても、殊更に副詞的な要素が強いところにあるように思われる。


光琳もまた宗達に比べれば、形容詞的「伝統」に則っている部分があり、その他の多くの絵師たちも、装飾性をどちらかと言えば形容詞的なものとして捉える中、宗達は装飾性の根底に、副詞的なものがあると見抜いていたような気がする。


本阿弥光悦とのコラボレーションにしても、調整の天才光悦をして、宗達の過剰な副詞性に翻弄されている例も見られる。


宗「光さん」
光「何ですか?宋さん」
宗「いい事思いついた」
光「宋さん、またですかぁ?
  今度はあんまり無理言わないでくださいよぉ」
宗「いやいや、こりゃいい、うんうん」
光「だから、勝手に納得するのやめてくれませんか」
宗(話聞いてない)「こうね。色紙をね。バーッとね」
光「ですから何の話ですか?」
宗(話聞いてない)「あちこちにね。こうバババッってね。
  でね、こうね、光さんの文字がね、
  ピュピュッと入ってね、
  それが透けて見えるの。うん、いい!」
光「ああ、新作の話ですか。
  じゃこんな感じで入れましょうか」
宗「そうそう。光さん!すごいよ。何でも出来ちゃうね。
  やっぱり光さんはすごいよ!天才だよ!」
光「それはあんただと思うけど」
宗「でもね、ここんところはもう少しササッとやって、
  このあたりでグワッとしてね。
  そしてね、ダーッとガガガンと置いたらいいな。
  うんうん」
光「ダーッでガガガンね。ってこんな感じでどうすか?」



宗「光さん」
光「はい?」
宗「鶴がいるの」
光「は?」
宗「でね、それがね、とびたつのじゃなくて、と・び・た・つ・の」
光「は?」
宗「鶴がね、とと、びと、たと、つと、のなの。
  でもね、もっと細かくね、
  ととととびびびびたたたたつつつつののののなの。
  そこにピョッピョッがあって、それが、ズーッとズーッとなの。
  で光さんの歌がね、ヒュルヒュルヒュルーッてね」
光「桜山吹の上に描くんですか?鶴」
宗「そうじゃなくって、鶴なの鶴」
光「ああ別の作品の話ですか。そう言ってくださいよ。
  うわあ、これがそうですかぁ〜。
  じゃこんな風ですかね」
宗「光さん!すごいよ。天才だよ」
光「はあ、ありがとう。字、間違えちゃったけどね」



宗「ムクムクムクムク、ムックムク」
光「ムックムク?」
宗「ジワジワジワーッっと、
  おおおお、ムックムク、ムックムク」
光「なに勝手に犬の絵描いてるんですか。
  人の話聞いてくださいな」



宗「光さん」
光「はい」
宗「ススキなの、ススキ」
光「はあ?」


以下続く。


宗達、謎の絵師である。生没年も含め、その人物像は殆ど判らない。解釈の幅が広大なそんな宗達を主人公にした大河ドラマの初回はこんな感じである。


夜の帳が降りたニューヨークのギャラリー。光琳の個展のオープニングが開かれている。各界の名士や、スノッブな人たち、コレクターや業界人などが集まったオープニング。江戸時代風オードブルや江戸前寿司をパク付く人垣の後ろでは、バイヤーが既に商談に入っている。


眉間に皺を寄せて、神経質な表情であれこれとここはこう、あそこはこうなどと自作を説明する光琳と、それを拝聴する(話の内容は全然わかってない)恰幅のいい紳士とその愛人。


光琳の背中越しのカメラに切り替わり、説明するその先にある作品が徐々に明らかになる。光琳作の「風神雷神図」。



オープニングの喧噪をバック(徐々にフェードアウト)に、その風神へとカメラはズームインしていき、緑一色になった後、再びズームアウトすると、そこには鼻歌(フェードイン)を歌いながら、風神を描き上げる宗達の仕事場の図になる。



時々、グレン・グールドのように、低くくぐもったオノマトペを発しながら、満面の笑みを浮かべた宗達。楽しそう。


そこでオープニングタイトル開始。「そうたつ」の文字。題字はクレヨンで幼稚園児が書いたもの。テーマ音楽の作曲者はキダタロー


(2005年10月6日初出のものに加筆修正)


【続く】