プリティ

通常ここでの「展評」は、「固有名詞」を極力出さない方向で書く事にしている。しかし今回のこれは「展覧会」ではなく「常設作品」であり、場所もまた「美術館」や「ギャラリー」ではない。しかも、これらの作者の「固有名詞」を出そうにも、その情報が作品の周囲に表示されていない為、それを得ようにも得られないと来ている。

或る意味で、これは「名所」であると思われる為に、得られるだけの情報を書く事にする。場所は「東京都中央区銀座8-13-1」の「三井ガーデンホテル銀座プレミア」エントランス。そこにこれらの「作品」はある。

目を引く大作はこれだ。これはホテルの外からも見る事が可能だ。

コンデジのストロボが炊かれ、中央がハレーションを起こしているが、まあ大体こんな「絵画」である。或る著名画家の名前が喉まで出掛かるが「それにしては」だ。そもそも「それ」であれば、こんな所に「無防備」に展示してあるだろうか。

展示されている壁面は、乳白アクリル製であり、それが「行灯」になって、この絵画を「バックライト」している。従って、この画像では写っていないが、「バックライト」によってキャンバス地が透け、木枠がレントゲン写真よろしく見えていたりする。その展示方法が意味するところは良く判らない。

兎に角手数は多くない。どこかしら「手練」の人の手による仕事の様にも見える。そしてこれが或る著名画家の作ではない決定的な「証拠」が右下に見える。

「Y.S.」。微妙に微妙を重ねたサイン。「M.R.」ではない。大体「M.R.」は、こんな場所にデカデカと「サイン」なんか書きはしないのだが。そこからしても、この絵が微苦笑を誘う「プリティ物件」極まりない事が判る。署名とは「この絵は私の絵だ」と高らかに宣言する為の「烙印」を意味するが、その「私の絵」がこれである。

その「プリティ」の伝染力は強く、このホテルのエントランスを突き破り、「プレミア」を名乗るホテル全体や、窓外の銀座や、東京や、日本全体にまで至る程の強烈さである。以前「ディズニーランド」そっくりの遊園地が、某国の首都付近に存在し、その「プリティ」な園内の様子が、その国で行われたオリンピックの公式サイトから世界中を巡り、その国全体の「プリティ」さを証明する「証拠」とされたものだが、この「ホテル絵画」もまた、日本美術界の、或る側面に於ける「プリティ」さを世界に大いに示し得る物件だと思われる。

その横には、これもまた主に戦後のアメリカで活躍した「抽象彫刻家」の作品と見紛うばかりの物件があるが、それは単なる「花器」である。そしてそこには、初めて「署名」が判明する「作品」である「生け花」が施されていたりする。

恐らく日本文化の特色の一つには、こうした微苦笑を誘う「プリティ」があるのだろう。凡そ「仏教伝来」以来、「思想」から「芸術」、「工芸」、「建築」、「工業製品」に至るまで、そうした「プリティ」は枚挙に暇がないのだと思われる。